双極性障害(躁うつ病)

あいち心身クリニックでは双極性障害(躁うつ病)の治療に力を入れています

双極性障害(躁うつ病)とは

気分爽快で意欲に満ちた躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態を繰り返す病気です。
「躁うつ病」は現在の医学界では正式には「双極性障害」と呼ばれ、両者は同じ意味と考えて良いです(ただし、医学的には「躁うつ病」は「うつ病」も含めた意味で用いられた時期があるため両者は厳密には同じ意味ではありません)。この「双極」とは、「うつ」の極と「躁」の極の両極が現れることを意味しています。
双極性障害には大きくわけて1型と2型があります。1型は、「躁状態」「うつ状態」が交互に現れる疾患、2型は、軽い躁状態、つまり「軽躁状態」「うつ状態」が交互に現れる疾患です。2型の方が多数を占めます。

躁状態・軽躁状態とうつ状態とは

「躁状態」とは、異常に気分が高揚した状態で、自尊心が肥大し、やたらとおしゃべりになったり、活発に行動するが集中できずどれも中途半場で終わってしまうなどの言動が見られる状態です。あまりの高揚ぶりにトラブルになったり入院に至ることもあります。

「軽躁状態」とは、躁状態と基本的な部分は同じですが躁状態ほど重篤ではなくトラブルになることは少ない状況です。多少の無駄遣いや口論、上から目線はあるかもしれませんが、思考が早くなったりいろいろなアイデアが浮かぶため、仕事や学業で成果を上げるなど良い面も見られます。

「うつ状態」とは、主に「抑うつ気分」「興味・喜びの喪失」によって特徴づけられます。
「抑うつ気分」とは、単に憂うつだったりやる気が出ないというものではなく、形容し難い嫌な苦しい気持ちがまるで永久に続くかのように感じることです。もう少しわかりやすく言うと、気力の問題を通り越して、体に来る嫌な感じ、体がだるい、重い感じがして外出もできない、ひどい場合は体を動かすこともままならず一日中横になって過ごすこともあります。ただ、双極性障害の抑うつ気分は変動が著しく、前の日は割と普通の気分だったのが、寝て起きたら朝から全然ダメで動けない、しかし、翌日には回復していることも多く、抑うつ気分の持続期間は、短いと半日から1日程度、長くても1~2週間と短いという特徴があります。

「興味・喜びの喪失」とは、全てのことに全く興味を持てない状況です。趣味や遊びには興味があるのに仕事や勉強に興味がなくなったというのはこの状況にはあてはまりません。大好きだった自分の趣味に何の興味もなくなるばかりでなく、ひどい場合には、愛する家族、子どもにも愛情を抱けなくなります。

双極性障害の診断

難しい学術的な診断基準のことは別にして、双極性障害は、簡単に言えば、今回の症状が初めてではなく、過去に「うつ状態」「躁状態」または「軽躁状態」があったことで診断がつきます。しかし実際は、次のような理由のために診断は容易ではありません(チェックリストに書き込んでも診断の根拠にすることはできません)。

「躁状態」は明確に異常な気分の高揚がありトラブルを起こすこともあるので、「躁状態」と自覚できる、あるいは、人からそう指摘されることは多いです。しかし、「軽躁状態」は患者さん本人にしてみれば気分が良い状態なので、何ら問題はなく、「軽躁状態」と自覚することはほとんどできませんし、周囲の人も気がつかないことが多くあります。
一方で、「うつ状態」は、強い憂うつ、興味の喪失といった辛さだけでなく、集中力や思考力が低下するため、仕事や勉強に支障が出るので、「うつ状態」は強く自覚します。そのため、双極性障害の患者さんが病院に来て医師に訴える症状は、「うつ状態」の症状が中心になってしまいます。そのため、「うつ状態」の症状だけを聞いて「うつ病」と診断されてしまうことがあります。

しかし、「うつ状態」はうつ病だけでなく双極性障害や統合失調症、不安障害、パーソナリティー障害などあらゆる精神疾患に現れる症状のひとつでしかありません。これは身体疾患でいえば発熱に例えることができます。発熱はさまざまな身体疾患で見られる症状のひとつですが、発熱する病気は無数にあるので、熱があるというだけではどの病気なのかわかりません。それと同じで「うつ状態」があるからといって「うつ病」とは言えないのです。
「うつ病」は中高年に多い疾患なので、若い人のうつ状態は、「うつ病」のうつ状態よりも「双極性障害」のうつ状態の可能性が高いと言えます。また、双極性障害のうつ状態には抗うつ薬(うつ病の治療薬)は効果がないので(ただし、若干の効果があるとする意見もあります。当院では無効もしくは悪化するとの立場をとっています)、抗うつ薬の投与を長く受けているにも関わらず症状が良くならない場合にも双極性障害のうつ状態である可能性があります。
したがって、患者さんが「うつ状態」で来院された場合でも、過去に「躁状態」または「軽躁状態」がなかったか聞き取らねばなりません。しかし、先に述べたように「軽躁状態」は本人にしてみれば調子が良い状態なので自覚できておらず、医師が積極的に躁状態の有無について聞いてもなかなか見いだせないことが多くあります。そういう場合は、過去に不眠傾向とその逆である過眠傾向がなかったか、食欲不振とその逆である過食傾向がなかったか、あるいは、過去に休学・退学や転職、離婚がなかったか、家族・血縁者の中に情緒的に不安定な人がいないかなどを聞き取ります。これらの事実は、明確に過去の躁状態を見いだせなくても双極性障害である可能性を示唆するものです。

双極性障害を治療する意味

双極性障害の患者さんの生来の性格は、エネルギッシュで多くの人と交流を持ち、いろいろなことに熱心に取り組む方が多いとされており、社会的には好ましい性格傾向と言えます。このため、仕事や学業で高い評価を得た経験がある方も多いのですが、気分が良いと熱心に様々なことに取り組む一方で、気分が沈むと活動的でなくなるという一面もあります。そして時には気分の沈みが極端になり、うつ状態になります。うつ状態に陥ると、仕事や学校を休まざるを得なくなるなど、せっかくそれまでに築き上げてきた努力の成果が台無しになってしまうこともあります。
治療してうつ状態に陥ることを防ぐこと、そこに治療の第1の目標があります。

重篤な躁状態は別として、軽躁状態では思考力が向上してバリバリと仕事や勉強をこなして高い評価を得たり、対人関係が活発になり人脈が豊富になるなど良い面もあります。しかし、これも行き過ぎると、気が大きくなりすぎて、必要も無い物を衝動買いしたり、しゃべりすぎて余計な一言を発して人間関係にヒビが入る、さらに議論好きの人であれば自分が正しいとの思いから人と衝突したり言い負かしてしまうなど好ましくない状況にもなります。そして、その先には、仕事やお金、社会的信用、さらには大切な人間関係、家族までも失う結果になりかねません。
治療により躁状態に至ることを防ぎ、安定した人生を歩めるようにすること、そこに治療の第2の目標があります。

双極性障害の治療

気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸ナトリウムなど)を主体に、必要な場合には抗精神病薬を組み合わせて治療します。
治療が進むとイライラ、不安、不眠は改善していきますが、時間がかかるため、治療が進むまで一時的に抗不安薬や睡眠導入剤を補助的に使用することがあります。

炭酸リチウム
(リーマス、リチオマール)
気分安定薬として40年以上の歴史がある定評のある薬です。
うつ状態・躁状態の改善、うつ状態・躁状態に再び陥ることの予防に効果が認められています。
飲み薬はどれも飲んだら消化管から吸収されて血液中に入りますが、この薬はある範囲の血中濃度を維持されなければならないという特徴があります。濃度が低すぎれば効果が出ませんし、高すぎると副作用が多く出たり中毒に至ってしまいます。その治療に適した濃度とは0.6~1.2mEq/Lです。1.5mEq/Lを超えると中毒症状が出始め、2.0mEq/L以上では中毒になります。そのため、治療を始める際は、少ない量から服用をはじめ、薬の血中濃度を測りながら徐々に薬を増量し、治療濃度に達したら増量を止めるという方法をとります。
薬の用量調節に時間がかかるため、薬の効果発現にも時間がかかります。比較的多い副作用としては下痢、ムカムカ感、食欲不振、手指の震え、甲状腺機能低下などがあり得ます。中毒症状は、脱力、意識障害、腎障害、不整脈等です。重い副作用、中毒症状を起こさないために、定期的に薬の血中濃度を測定します。
バルプロ酸ナトリウム
(デパケン、セレニカ)
もともと抗てんかん薬として使われていましたが、気分安定効果があることが分かり20年ほど前から気分安定薬として使われ、これも定評がある薬です。
躁状態の改善・予防に効果があり、うつ状態の予防効果も報告されています。不快な焦燥感・イライラがある場合には炭酸リチウムよりも向いています。
この薬も炭酸リチウムと同様に血中濃度の維持が必要な薬で、治療濃度は50~100μg/mLです。低すぎれば効かない、高すぎれば副作用が多く出る点も炭酸リチウムと同じですが、リチウムよりは安全域が広く副作用は肝機能障害、白血球減少、眠気などが有り得ますが、比較的少ないという特性があります。
ラモトリギン
(ラミクター ル)
ラモトリギンは2011年に双極性障害の治療薬として承認された新しい薬です。うつ状態・躁状態に再び陥ること(再発)の予防に効果があることが確認されています。
双極性障害は再発を繰り返す疾患で、再発率は1年間で48~60%、5年間では81~91%にものぼると報告されています。ですから、再発を防ぐことには大きな意味があります。
海外のおもな双極性障害治療ガイドラインでは、うつ状態・躁状態の再発予防を目的とした維持療法の第一選択薬として広く用いられ、とくにうつ症状の予防に推奨され ています。炭酸リチウムやバルプロ酸ナトリウムのように血中濃度を調べる必要がない点が長所です。しかし、報告によって差がありますが、10~20%の患者さんに発疹が出る場合があり、発疹が出たら服用は中止しなければなりません。稀に重症薬疹である、スティーブンス・ジョンソン症候群に至ることがありますが、誤った投与法でこれが起こる可能性が示唆されているため、服薬方法の遵守がとても大切です。まだ歴史の浅い薬なので、日本における治療成績の報告は、まだまだ少ないのですが、当院でラモトリギンを投与した患者さんでは、炭酸リチウムやバルプロ酸ナトリウムよりも、強い気分安定効果が、早く現れる傾向にあります。
抗精神病薬 もともとは統合失調症の治療薬として使われていたものですが、気分安定効果が認められ、近年では気分安定薬として用いられています。
オランザピン(ジプレキサ)、アリピプラゾール(エビリファイ)、クエチアピン(セロクエル)などがあります。これらの薬はバルプロ酸ナトリウムや炭酸リチウムと違って薬の血中濃度を測定する必要がないという利点がありますが、眠気や体重増加などの副作用があることから、当院ではバルプロ酸ナトリウムや炭酸リチウムの補助的な薬として用います。

当院での双極性障害の治療実績

あいち心身クリニックでは近年増加傾向の双極性障害の治療に力を入れています。
当院独自の標準治療手順(クリニカルパス)を用いて、医師、臨床心理士、看護師が協調して治療にあたっています。

平成25年6月(当院開院)から平成28年3月の間(34ヶ月間)に当院を初診され、当院で初めて双極性障害と診断された患者さん(他院ですでに双極性障害と診断されていた患者さんは含みません)は517名でした。診断基準を完全には満たさないが双極性障害が疑わしい患者さんも含めると609名でした。双極性障害の診断基準を満たした517名のうち、初診後6ヶ月治療を継続できた患者さんは216名(41.8%)でした。144名(27.9%)は診断名を受け入れなかったか治療を拒まれたため治療に至りませんでした。157名(30.4%)は診断に納得でき治療を開始したものの何らかの理由で治療が中断してしまいました。6ヶ月間治療継続した216名の患者さんの治療効果をCGI-BPという双極性障害の症状の評価尺度を用いて解析したところ、気分が概ね正常範囲内になった患者さん(CGI-BP3点未満)は185名(85.6%)、日常生活に支障ない軽度の気分変動にまで改善した患者さん(CGI-BP3点以上4点未満)は16名(7.4%)、中等度以上の気分変動が続いた患者さん(CGI-BP4点以上)は15名(6.9%)でした。中等度以上の気分変動が続いた主な理由は、規則正しく服薬できなかった(7名)、治療薬が奏効しなかった(8名)でした。6ヶ月治療を継続できた216名の患者さんのCGI-BP点数の平均値(高いほど症状が重い)の推移はグラフのとおりです(図中のマークは標準偏差)。このグラフを見ると、治療開始から1ヶ月程度はなかなか症状の改善は見られないものの、2~3ヶ月後から症状の軽減が見られるため、辛抱強く治療を継続できれば、症状の改善が見込める可能性が高いということがわかります。

517名もの患者さんを確実に双極性障害と診断しながら6ヶ月治療継続できた患者さんが216名(41.8%)に留まったことを当院では残念に思っています。治療を開始あるいは継続できない理由は、第1に、上に述べたように躁状態をなかなか患者さん本人は自覚できないために診断名を納得できないということです。第2は推測になりますが、診断名に納得はできても診断を受け入れ難い、すなわち自分は心の病などではないと思いたいという心理が働くためでしょう。これは双極性障害のみならず精神疾患全般に言えることです。創意工夫で何とか皆さんが納得して治療を継続できるようがんばる所存です。今後も随時データを更新し発表して参ります。

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